僕の尊敬する友人。
美大の大学院の時に出会った。
彼女は大学4年生だった。
僕は文字を山ほど書いていて、
彼女は紙で石を山のように作っていた。
真冬のの手洗い場。
お湯なんて出ない。
夜中まで作業することが多く、
彼女もまたそうだった。
当時はそんなには喋らなかった。
お互いの存在はなんとなく知っていて、
手洗い場で合った時なんかに、
「水が冷たいね」「遅くまでやっているね」
なんてことを話したと思う。
石を作り続けた彼女は花王に入り、僕は資生堂に入った。
なんとなく同じような仕事で、卒業してから、たまに会うようになった。
卒業制作で見た、彼女の紙の石は、同じ形は一つもなく、凛としていて、まるで本物の石がそこにあった。
僕はとても感動した。
こんな素晴らしい作品を作る人なんだと。微かな、僅かな、そんな感覚を持っている人なんだと、
また感動した。
僕は彼女を尊敬している。
彼女は言う。
「美しいものを掬い取りたい」と。
僕はとても納得した。
彼女はとても真っ直ぐで、強い芯があり、とても温かく、愛情深いと僕は勝手に思っている。
変な言い方だけど、とても人間らしいなと思うのだ。
そんな彼女が結婚した。
今は和歌山に住んでいる。
結婚式が数日前にあったのだけど。
本当に彼女らしい、温かい、人の体温のように安心できる、そんな雰囲気があった。
人前式で彼女は森の中から出てきた。
大きな木に、白い長い布がかけられていて、その日は風が強く、白い布が色んな方向になびいた。
話には聞いていたけど、彼に会うのは初めてだった。
彼の友人たちは口を揃えて難しい人だと言っていた。でも、すごく二人の空気が素敵に思えた。
二人はとても美しかった。潔さも感じた。なんというか、普通の結婚式ではなかった。
僕はウエルカムボードという名の作品を作ったのだけど、その依頼の時に言ってた。
この結婚式は、今までお世話になった人たちに、私たちはこれからきちんと生きて生きます、そして、どうもありがとうございました、と伝えたいと。そのようなことを言った。
ウエルカムボードに関しては、そのような形でなくていいと言った。
二人の節目の日に、僕の作品を飾りたいと、ウエルカムボードではなく、作品にしてほしいといった。
僕は大丈夫かなと思ったけれど、作ってみることにした。
夏の、鎌倉の朝、10:30、二人の結婚式。
海を作ろうと思った。それは感覚的に思った。しかも、陶器で海を作りたいと思った。
とにかく、冬の海でもいいから、午前10:30の海を見なくてはいけないと思った。
冬の海はとても寒く、少し暗かったけど、きっと夏の海はキラキラしているんだろうと思った。
そこから、海とたたかう4ヶ月が始まった。毎週陶芸に通い、ひたすら線を引いた。
4つ。たった4つ。4ヶ月でできた海は4つ。
二人に贈ったのは四つ目の海。僕は四つ目の海というタイトルで短い文章のようなものを書いた。
喜んでくれただろうかと、思ったりするけれど、もう渡したから、考えないことにした。
二人の暮らしに馴染むことを願っている。
話がそれた。巻き戻そう。
大学の手洗い場で筆を洗っていた彼女。そして森の中をゆっくり歩いてきた彼女。
ああ、繋がっているんだ、そう思った。あの時も、今も、ずっと彼女は繋がっている。
何かは変わったかもしれない。それは分からない。でも。僕の前にいる彼女はあの時の彼女の先にいる、そう思った。あどけないあの時の彼女は本当に素敵な女性になっていた。
お互いに社会に出て、もみくしゃにされて、それでも頑張って。彼女は仕事を辞めて和歌山へ行った。
すごいと思った。
そのようなことを考えていたら、涙が止まらなかった。
僕や多分彼女にとっても、社会というものはとても生きづらい。
色々な波を越えてきたのだなと思った。
彼、彼女はとても嬉しそうだった。
それで僕も嬉しくなった。
会場は、色々な楽器の生演奏で、とても楽しい空気があった。
結婚式はあっという間だった。
最後に彼女は両親に作文を読んだ。手紙ではなく作文を書きましたと言っていた。
タイトルがきちんと覚えられていないのが本当に残念だけど、素晴らしい作文だった。
僕はまた大泣きした。
暮らし。ふたり。これからの未来。
翌日、文字を書いた。ふたつ書いた。
森の中の花嫁 忘れないように。あの気持ちをここに残すために。
何枚も書いた。僕にとってはとても珍しいこと。
何枚書いても、届かない。
息を止めて、汗を書きながら、声を出して思い切り書いた。こんなことも滅多にない。
それを載せて、この長い文章を終わりにする。
ふたりへ、どうもありがとう。
0 件のコメント:
コメントを投稿