2009/11/07

家族



お湯を沸かした。
前につくったハチミツレモンを入れた。
用意するマグカップは一つ。
僕はここへ帰ってきた。


実家へ帰ってきた。
夜行バスで10時間ほどかかる。
夜を越えると 向こうには朝があって そこには家族がいる。


病室に入るとばばは泣いた。
じじは眠っていた。
このまま起きないんじゃないかと思う程に何時間も寝ている。
生きていることが分かるのは、イビキをかいていたから。


夏に会った。
数ヶ月の間に、じじはもっと小さくなった。
数時間病室にいて、正直なところ逃げ出したくなった。
でも ばばはここにいるのだ。毎日 毎日。
ばばは朗らかに話した。
幼い時のこと。
自分が子供を生んだときのこと。
僕たち姉弟が生まれたときのこと。
ぼくらが育ったこと。
もう、何十回と聞いてきたけれど、僕は笑いながら話を聞いた。
ばあちゃんの見た、へびが3匹うねり合ってとぐろを巻いている話の時は、
心から身をよじった。


お腹がすいていないかと何回も聞く。
若者はお腹が空いているという考えがあるようだ。
そしてお腹いっぱい食べさせてやりたいと、真剣に思っている。


病院の食堂へ行こうと言った。
なかなかおいしいらしい。
でも、ここはいつだって来れる。
外に行った。
うどんを食べた。
ばあちゃんは 山かけうどん がとても好きだ。
おいしいと言った。


じいちゃんはたまに起きる。
足の指が無くなっていた。
指が無い足は なんだか別のものに見えた。
彼はとても勇敢で、我慢強いのだ。
昔から。きっと生まれた時から。


とても寒い一日だった。
テレビをつけると 今年一番の冷え込み だと言った。


田舎の空は澄んでいる。
夕方から雨が降り出した。
そして止んだ。


重い雲が左にあって 寒空が右にあった。


夜、もう一度母親と病室へ行った。
この土地ではきちんと夜がやって来る。


就寝の時間になり、ばあちゃんはじいちゃんの隣にベットを出し、寝る。
ライトを一つだけ灯し
母親と僕はおやすみと病室を出る。


ばあちゃんも おやすみ と返し
ドアを見つめる。
苦しい程に 泣きそうになった。
今日のばあちゃんはとてもうれしそうだったから。


僕はたまに帰る。
でも、この病室でも、実家でも
この毎日は日常なのだと 思った。
そう思ったのだけど、思ったのだけど。


今日もきっとライトを一つだけ灯して
おやすみ と言ったのだろう。


私は幸せよ。家族がおって。
眠るじじを見ていたのか、遠くを見たのかは分からなかったけど、
その言葉はとてもやさしい温度だった。




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